なんで夜に爪を切ると親の死に目に会えないの

昔、夜に爪を切ることは、単に縁起の悪いことであったという。
その頃、人は親の死に目を看取ることこそ真の親孝行とぞ言いけり。
生まれ出でる時は親に見守られ、
死ぬときは子に見守られるものこそ人の幸福と言いつたえたり。
あるところに矢太という若者おりけり。
この若者日頃より孝行なれど、
薬を買いにでかけた先で酒を飲み、
親の死に目をのがしてしまったという。
ほろ酔いにて帰宅し、
親の死を知った矢太の狂乱これ凄まじく、
その涙は畳六枚を湿し、
悲しみの声は谷中の鳥を全て飛び立たせたという。
矢太はおおいに嘆いて親の後追わんとし、
昼のうちに髪を切り整え、
夜のうちに爪を切って、
朝には冷たくなりけり。
その時より、
不運にして親の死に目に会えなかったものは己の不孝行を嘆き、
矢太のようにあとを追うことは出来ぬまでもせめて、
と、
夜に爪を切って親の死を悲しんだという。

時流れ、
後世の者、
夜に爪を切ることと親の死に目に会えぬこと、
因果を取り違えて伝えたり。
さすればこれすなわち、迷信と覚え置くべし

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